【報告】JWPAフォーラム 2019in横浜を開催しました。(2019/08)「第1部:響くブランディング」の内容を一部公開します。

2019年8月に横浜市開港記念館で開催された「JWPAサマーフォーラム2019 in 横浜」

プロのインタビュアーとの対談の内容の詳細を大公開します。

人気フォトグラファーの集客⼿法
第1部:響くブランディング

渡辺未知×池田一喜

●ブランディングのはじめ方は?

渡辺「2004年頃、先輩のカメラマンに言われたのは“まずは完全にデジタル化のワークフローを身につけなさい”“ホームページをとにかく作れ”でした。当時は簡単なホームページビルダーなどを使って形だけは整えて、“自分はどういう想いで撮るか”とか“どういう写真を残したいか”ということを発信し始めました。(ホームページの立ち上げが他のフォトグラファーより)ちょっと早かったのがよかったのかなと思っています」

池田「僕が思っている“ブランディング”とは、仕事が入る前の、まだお客さんになっていない人に対してイメージを作り上げる、みたいな解釈をしているんですけど。もしそれが正しければ、今もやっていないです。やっていることといえば、撮ったお客さんに対して何をするか。これがほとんどメインで、いちばん重要なところ。撮影が終わってから本当の仕事が始まる感じでやっているので、(やり方は渡辺さんと)180度違うと思います」

渡辺「私は“打ち合わせから撮影から、そのあとの処理まで、時間をかけてゆっくり丁寧にひとりでやるよ”っていうのをブランディングにしています。働き方の形態にもよるんですけど、私はひとりでやっているので、自分が作業できる時間を考えると素早くはできない、逆にそれをウリにしていますね。“早くできなくてすみません”ではなく、“一点一点丁寧に時間をかけて対応していきますよ”ということに変換して、それをホームページやブログで書いたり、打ち合わせでお話したりしています。自分ができる範囲をマイナスと捉えずに、“それが持ち味ですよ”というプラス面としてプレゼンしていくのが大事かなって思います」

●撮影した日に必ずやっていることは?

池田「B to Cだけでやっているので、お客さんが例えば100人いたとしたら、ブログやSNSへの掲載OKをもらうのが98%の人たち。撮影が終わったら、必ずその日のうちにブログ、SNSをアップします。今はほとんどYouTubeがメインなんですけど、ほぼ毎日アップしています。写真を撮ると同時にiPhoneでも動画を撮って、写真と組み合わせてスライドショーにして、そのお客さんの一日をYouTubeにアップします。それが繁忙期で土日関係なしで30日間連続撮影とか、そんな状況だったとしても、30日間毎日その日にアップする。そこにアップするためにセレクトした写真は、その日中にLINEでお客様に送っちゃう。その日中にアップすれば、お客さんは日付が変わる前に勝手にどんどん拡散してくれるんです。ということをずっとやってます。YouTubeを毎日上げ出したのは、去年くらいからなんですけど、それまでは、ブログ、インスタ、Facebook、ブログは最低1000文字書くっていうのを、その日中に完結するようにやっていました

こちらが発信すると、ほぼ同時刻にお客さんが拡散してくれるんです。結婚式でも、お宮参りでも、七五三でも、撮ったその日にブログやYouTubeが上がっていると、夜中でもみんなどんどん拡散してくれる。例えば、挙式だけをして、あとは親族だけの食事会だったら、その食事会をしている時間内にYouTubeを上げちゃって、ご飯を食べながらそれを観られる、みたいな。そのほうが拡散してくれるので。数日経ってからではなくて、“その日中に済ませる”ということにこだわっています」

●“その日のうちに”を実現するための工夫は?

池田「撮影するときにいつも考えているのは、“お客さんにしたら、お金を払っているので、いい写真を撮ってもらって当たり前”。だからこちらは当たり前以外のこと、できたら写真以外のこと、“想像もつかなかったことをしてくれる”を提供するようにしています。あと、撮り方にも関わってくると思うんですけど、デジタルから入った人たちには想像もつかないようなカメラの設定とか、機材選びとか。

うちはJPEGで撮って、フォトショップを使っていないし、加工したり余計なものを消したりもしていない、ソフト自体を持っていないんです。カメラは全部ほぼマニュアルで、露出もホワイトバランスもオートじゃなくてマニュアルで設定して、基本的にトリミングはしない、という発想の撮影スタイルでやっています。そういったことをしないと、LOWで撮るとかいろいろやっていたら、絶対その日中にできないし、トリミング一枚するのも時間がもったいないんで。トリミングも色調整も基本的にしなくてもいいように撮影の段階でやっておくと、違うことができていくんです。

あと、自分がお客さんだったとしたら、例えば“10万円を払ったら、最低これくらいの写真は撮ってほしいな”というのは当たり前の範囲で、そこから違うことをどれだけできるか。“え、カメラマンなのにこんなことまでしてくれるの!?”みたいな、そういうことですね。それは撮影の現場でもそうですし、メールの問い合わせでもそうですし。例えば“こんなことできませんか?”って問い合わせがきたときに、“できません”って理由を返事するのは当たり前で。じゃあお客さんが聞いてきた動機は何だろう? って想像して、“それはできないけど、こういうことをしてほしいんだったらこういう方法はどうですか?”ってこちらから提案していく。写真以外での接客をずっとやっています」

●自己分析力の磨き方は?

渡辺「いかに自分の個性を出すか、まさにそこがブランディングだと思うんですよね。特に今、ウエディングフォトに限定すると、“心を込めて撮影します”とか“幸せな瞬間を残します”って本気で思ってやっていても、みんなもそうだから差がつきにくいんですね。そこばかりをアピールしてもなかなか個性が出にくい。じゃあ、そこから先は何で差をつけようかと“ちょっとでも値段を安く”とすると、しんどくなったりとか。そこが我々の大変なところなんですよね。どんなに自分を見つめ直しても、それを心から打ち出していても、それが同じように並んでしまうと差がつきにくいんです。

私は、とにかく個性というのは他社との比較でしか出てこないと思っています。私が実際にやっていることは、自分が当たり前と思ってやっていてもほかの人がそうではなかったり、逆にほかの人が当たり前にやっているのに自分はやっていなかったことを書き出して比較をすること。ここは直したほうがいいと思えば直すし、本来はマイナス面になりがちなところを“これが自分の個性で、よかれと思ってやってます”として発信していく。これからは“何を発信していくか”っていうところがブランディングに大切だと思います。数も大事なんだけど、違いをどう出すか。爆発はしないけど、ゼロにもならない、コア層にリーチしていく、私はそこを狙ったブランディングを意識してやっています」

●ターゲットにしているコア層は?

渡辺「特に今の日本のブライダル産業の流れからいうと、結婚を決めてすぐに“カメラマンは誰にしよう?”って考える人は少なくて。やっぱり最初はパッケージがデフォルトでありますからね。それで何か問題があったり、気に入らないことが起こってから、“誰か探そう”ってなることが圧倒的に多いと思うんです。まあ、変わってきてるとは思いますけど。

そういうお客様の中で、この前来た方は“普通のサービスだと、誰が撮るのかよく分からない”という理由だったんです。“誰が撮るのかが大事で、誰だか分かる人の写真がほしいから来ました”と。これはもう私が漠然とイメージしていた“こんな人に来てほしいな”という層にカチッとハマった例で。“あ、私はこんな人に来てほしかったんだな”って気づいたんです。B to Cというフリーのカメラマンは、そういう発想をしてくれるお客様を増やす活動もしていかなきゃいけないんですよね。

それから、いっぱいいる中で見つけてもらうには、フォトグラファー像を前面に押し出すのもひとつのやり方ですけど、必ずしもそうじゃなくて。お客様に“自分と価値観や雰囲気が似てるな、合うな”と思ってもらうのも大切だと思っています。その上で、自分が素敵なウエディングだなと思ったお客様や、来て欲しい雰囲気のお客様の写真を多めに出すとか、そういうことも心がけています。

年齢層でいうと、個人的に来られる方は、私の年齢に近い40代以上の方が多いんです。“あまり若い女性のカメラマンにキャピキャピした感じに撮られると自分はちょっとしんどいので”っておっしゃる方が多かったりしますね。新郎さんからの依頼も多いんですよ。そういう層を狙ってブログを書いているところはありますね。検索のヒット率はそんなに高くないんですけど、成約率は高いほうだと思います」

●個性を出す発信とは?

渡辺「具体的になかなか説明しづらいんですけれども。好きな映画や本のイメージを伝えたりだとか、自分らしい言葉のひとつひとつだったり、文章だったり。あと、色味、ですね。私はサイトの知識がないので、ワードプレスのテンプレートみたいなものを使っているんですが、必ず色はカスタマイズして“この色を見たらなんとなくMichi Photographyを連想してくれる”という色を使っています。アルバムの箱の色なども全部そろえているので、“この色が好きなんです”って言ってくださるお客様も多いですね」

渡辺「私は写真講座も開いていて、そこの生徒さんたちと一緒に年に一回京都でグループ展をやっているんですね。池田さんも見に来てくださるんですけど、だいぶ前に“みっちゃんのお客様ってみんな雰囲気が似てるね”って言われたんですよ。みなさん個人でバラバラに来ているんですけど、統一感があるって。“同業者からそう見えるってことは、私、ブランディングが上手くいってるわ”って思ったんです。そういう意味では、池田さんに影響も受けているし、参考にもしています」

池田「すべてのお客様にアンケートをとっていて、その中に“なぜうちを選んだんですか?”って質問もあるんですね。写真に関する理由ももちろんありますけど、写真とはまったく関係ないことにもいっぱいチェックが入るんです。“ホームページに載っているイラストがかわいかったので頼みました”とか“打ち合わせの部屋にガンダムのモビルスーツのフィギュアがあるので、そういう部屋で打ち合わせをしてみたかったです”とか“どういう写真を撮るのか会ってみたかった”とか“メールの返信がすごく早かった”とか。写真の良し悪しとはまるっきり関係ないところなんですよね。

あと、最近は“インスタとかで見るほかのカメラマンさんの写真は著作権フリーの写真みたいでピンとこなかった”“きれいな写真だけど、よそよそしい”“カメラマンのモデルにされたみたいで、写真からお祝いの気持ちが感じられなかった”って、よそのカメラマンに対する意見も聞きました。今の時代、お客さんも目が肥えているし、技術とはまったく違うことを理由にされる方が多いんですよ。うちに頼む理由でいちばん多いのが“なんとなくピントきた”とか“雰囲気がよかった”とか、具体的にこれという理由がなくて来る方がほぼです」

池田「今まで無意識でやっていたんですけど、お客様からしょっちゅう言われるようになったんで意識して撮るようになったんですけど。カメラマンが“よし、これがいい”と思って撮った写真以外がすごくいいと。

具体的に言うと、七五三の撮影で、“急いで行かなあかん!”っていうときに、お父さんとお母さんが女の子の着物をめくって生脚出してガーッと走ってるところを撮ったんですね。500枚くらいのデータを納品したんですけど、ご両親が気に入った写真の1位はそれだったんです。“ちゃんとポーズをキメた写真はどこでも誰でも撮れるけど、こんな写真を撮る人はいなかった”って。あと、家族写真を撮っているときに、パパのケータイに電話が掛かって、“パパをバックにしてそのまま撮っちゃいましょう”って、それがよかったりとか。

表には出せなかったけど、披露宴で新婦さんが脚ガバーって広げながらうちわであおいでる写真は、むっちゃ二人が気に入ってくれて(笑)。会場正面の招待客からは見えないけど、僕のいる横から見るとバッチリなんですね。そういうのを撮るか撮らないか。ちゃんとポージングができているきれいな写真は撮れていて当たり前、そうじゃないとんでもない写真をすごく喜んでもらえるんです。やっぱりB to Cだから何やってもオッケーというか。もし会場提携のカメラマンだったら絶対に注意されるだろうなって」

渡辺「フリーでB to Cでやっていくには、舞台裏のいい写真をどれだけ撮って出せるかっていうのは、すごく大事だと思います。ポーズ写真、記念写真が撮れているのは大前提だけど、そこで差はつきにくいので。差を出すとしたら、“こういうところもしっかり押さえているんだよ”っていう写真ですよね。

私の場合はそれが花嫁さんのお仕度のシーンなんです。女性が変貌していく様っていうのは私自身もすごく興味があって撮っているので。そこに共感してくださるお客様が多いので、多めに出したりしますね。フリーのカメラマンとしてブランディングするなら、“上手に撮れている写真”より“分かりやすい写真”を出す。そこのところは私も池田さんも共通していると思います」

●結婚するカップルが減少していく中、業界で生き残るには?

池田「自分が持っている世界をお客さんと共有できるかどうかだと思うんですね。お客さんの価値観はどんどん変わっていくので、それに合わせて自分がやりたくないことはやらなくてもいいし、やりたいこともどんどん変わっていくと思うんですね。さっき言ったような、僕が撮る舞台裏の写真を“そんなゲスい写真を撮るのは私のポリシーに反します”と思ったら、そういう写真を撮ってほしくないお客さんが来るだろうから。“当たり前にいい写真”っていうのはインスタでもどこでも山のようにあるんで、まずは自分らしい写真をきちんと出すことですね。自分じゃないと撮れない写真に共感してくれた人たちに来てもらうことが大切だから、あまりテクニックは関係ないかなと思います」

渡辺「結婚するのに式を挙げない人、式は挙げるけど写真にこだわらない人っていうのはいっぱいいるので、まだまだやることはいっぱいあると思います。でも、狭い層を奪い合うんじゃなくて、放置されている状態の人を掬って“個性や作風で選んでくださいね”っていう形でみんながやっていけば、結局は業界全体が上がっていくと思うんですよ。カメラマンはそれぞれの得意分野があって、やり方もひとつじゃないので、欲張らないことだと思います。貪欲に努力はしていかないといけないけど、自分が求めているコア層にリーチしていく意識を持つことが大事だと思います」

池田「これは明日からでもすぐできることだと思うんですけど。“親身になっていろいろやってくれたから”って理由のリピーターさんが多いんですね。例えば、披露宴で乾杯したあとに新婦さんがキャロキョロ会場スタッフを探しているので僕が聞きに行ったら“口紅が全部とれちゃって”って言うから、いつも必ず持っている手鏡とストローを渡してメイクさんを探しに行ったら、ビックリされたんです。小さい裁縫道具も常に用意していますよ。そこに気づくかどうか、ですよね。お宮参りのときは“みなさんは手ブラになってください。荷物は全部私が預かります”って預かったり。暑い日はうちわを配ったり、ハンディの扇風機や冷凍庫で冷やしたタオルを持っていったり。そういう写真以外の気遣いですよね」

渡辺「もう一点。プロとして売り出して、ブランド力を高めて、集客をキープするには、いいブックを作ることもすごく大事だと思います。SNSやYouTubeで発信することのほかに、プリントすることにも注力したほうがいいと思います」

渡辺未知 ウエディングカメラマン

渡辺未知
Michi Watanabe

熊本⽣まれ、京都在住のフリーランスフォト グラファー。Michi Photography代表。法律事務所勤務という畑違いの分野 からの転⾝。独⾃テーマをかかげ、活動範囲は 国内のみならずイギリスにも及ぶ。

池田一喜 ウエディングフォトグラファー

池田一喜
Kazuki Ikeda

キキフォトワークス(株)代表フォトグラファー 18歳から地元の写真館でスクールフォト専⾨の 撮影からはじまり、多店舗展開している写真館で ウェディングフォトの指導役としての経験もある。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次